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男たちの桜田門外 ―テロリスト、あるいは特攻兵士への情緒的共感―②

 まず、主人公の水戸浪士が大沢たかおであり、水戸藩主・徳川斉昭が北大路欣也であるという時点で、昨今のテレビ時代劇のイメージに依存しすぎているように思えてしまう。特に大沢が幕末の日本で活躍するなど、TBSのドラマ『JIN-仁―』を意識するなという方が無理な話ではないか。しかも大沢が演じる関鉄之助は、この映画では情熱的だが 同時に理知的な人物として描かれている。イメージが一致しすぎるのである。
 この他にも柄本明、渡辺裕之、本田博太郎、榎木孝明、伊武雅刀など、昨今のテレビ時代劇ではおなじみの面子が多数出演しており、そして彼らのイメージをいささかも崩すことのない演技が披露されている。唯一、時代劇のイメージが比較的薄い俳優で目立っていた人物といえば西村雅彦だが、これもどこか中間管理職的な弱々しさを漂わせた浪士の役で、言ってみればテレビドラマで焼きついている既存のイメージが、劇場のスクリーンでそのまま繰り返されているようなものだった。これではテレビ朝日あたりが年末にでも、「忠臣蔵」の代わりに放送した特番であるといっても違和感がない。上映が終わった後で私は、落胆のあまりに鑑賞料金を払ったことを真剣に後悔した。
 しかしこれで終わってしまっては、本当に鑑賞料金を損しただけのことになってしまうので、いま少し考察を進めてみることにする。少なくとも本作品と『男たちの大和/YAMATO』との連続性を論ずることは、無駄ではないはずだ。

 この二作品の共通性は、その一貫した主観性と情緒主義にある。主人公の「男たち」の「悲劇」は、彼らが置かれた大きな状況を客観的な視点を通して相対化することによってではなく、むしろあくまで状況に埋没しきった視点によることで描かれる。観客は悲劇のイメージを消費することで時に涙し、カタルシスを得る。
 少し考えれば、「戦艦大和」の乗組員たちが「新生日本」の「先導者」であるという発想が幾重にもおかしいことは分かるはずだし、また井伊直弼を暗殺した浪士たちが、日本の近代化のための犠牲者などでないことも分かりそうなものだ。しかし『桜田門外ノ変』の主題歌では、やはりあたかも彼らが、時代の「先導者」であるかのように謳い上げられている。
 また実際、映画のラスト近くでは、江戸城へと入る天皇の行列に随行していた西郷隆盛が、桜田門の前で馬を止め、かつて自分が思いもかけず裏切ることになってしまい、死地に追いやった浪士たちに思いを馳せるシーンがある。しかし、これも少し考えればおかしなロジックだ。この頃まで生き残って栄達を果たしている、かつての攘夷派の志士たちは、必然的に開国派へと総転向しているのであり、浪士たちの行動に共感できる立場ではないはずだ。それでも共感があるとすれば、それはせいぜいが、同じ時代を懸命に生きて、ある一時期に同調した、とでもいうような情感上のそれでしかない。ここで西郷を出してきたこの映画の作り手たちは(あるいは原作にも同様の描写があるのだろうか?)、要するに多くの年若い武士たちが、国を憂えるあまり暗殺というテロリズムに走ったという、その情動に対して、やはり情緒的な共感を寄せているのであって、深く幕末の日本史を考え直そうなどという意図は、そもそも無いのである。

 これは『男たちの大和/YAMATO』が十五年戦争を鳥瞰する視点に全く欠けていたのと同様の構図である。『大和』のストーリーが敗戦間際から始まるのと同様に、『桜田門外』では、まず「国難」として、列強に蚕食されようとする日本、というイメージが冒頭で強調され、出来る限り開国派の井伊直弼はふてぶてしく描かれて、大沢たちの生真面目さが対比的に強調される。実際のところ、政治的判断などはどうでもよいし、また実際には近い将来、日本こそが周辺諸国に「国難」をもたらす国家になることなど、最初から視野の外にある。客観的な状況説明よりも、状況に埋没しきって、それゆえに余裕のない必死さや懸命さが強調され、涙をそそるという構造になっている。それだけが、憂国による暗殺というテロリズムに観客を共感させる方法であり、またその後の日本の帝国主義的拡大、という近未来を悟らせない方法である。だがこれは、日露戦争の勝利までを「近代日本の輝かしい青春」として描く歴史観へと、極めてストレートに繋がっていく視点でもあろう。
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テーマ : 邦画
ジャンル : 映画

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